
絵を教えるときによく言う言葉に、「よく見て描きなさい」というものがあります。
ところが、そう伝えても、とんでもない絵が出てくることがあります。
たとえば、本の上に二個のりんごが置かれているモチーフがあったとします。ある人は、まるで空中から俯瞰した地図のように、四角の中に丸が二つある図を描きます。また別の人は、本の上で重なっているはずのりんごを、丁寧に二つ並べて描きます。
しかし、二人とも「よく見て描きなさい」を実践した結果なのです。はじめの人は、対象を正確な地図や図面のように捉えていました。次の人は、本の上に二つのりんごがあることを、しっかり確認していました。絵を描くのでなければ、それはどちらも大変正確な観察だったのです。
二人とも、絵とは「モノを表すもの」だと思っているのです。そして、これまでそのように絵を鑑賞してきたのです。ところが、それをそのまま描き表しても、どうにも絵になりません。そこで「自分は絵が苦手だから」と思い込み、修正しないまま来てしまったのです。
絵で言う「よく見て描きなさい」とは、ただモノを見るという意味ではありません。
モノとモノとの関係を見る、という意味なのです。
本とりんごの位置関係、りんご同士の重なり、手前と奥、見えている部分と隠れている部分。そうした三次元的な関係を、平面の上に表すことが絵なのです。
つまり、観察するところを勘違いしていただけなのです。
関係を観察するのだとわかると、それだけで絵は急に絵らしくなっていきます。